傀儡の恋
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久々に訪れたこの島はやはり小さい。
「そういえば、監視装置はどうなっているのか」
確認しておくべきだったか。口の中だけでそう付け加える。
しかし、あちらのとのつながりがほとんど途絶えている今となっては、それも難しいだろう。
「見つけたときに考えればいいことか」
そうつぶやくとラウは荷物を入れた鞄を抱え直す。
「さて……マルキオ師はどこにおいでなのか」
そうつぶやきながら道に沿って歩き出す。
もっとも、さほど一人で歩く必要はなかった。
「あら。お客様?」
そう言いながら顔を出したのはカリダだった。だが、ラウの顔を見た瞬間、彼女は凍り付いたように立ちすくむ。
「申し訳ありません。孤児院の職員の方でしょうか」
なぜ彼女がそういう状況になっているのか、わからないはずがない。だからといって自分が《自分 》であると告げるわけにもいかないだろう。そう考えて言葉を口にする。
「バルトフェルド氏の指示でマルキオ師にお目にかかりに来たのですが、ご案内願えませんか?」
初対面を装ってそう告げた。
「……あぁ、ごめんなさい。あなたが知り合いにそっくりだったものだから」
ようやく我に返ったのだろう。カリダがこう言い返してくる。おそらく見た目の年齢がキラ達と同じ程度だから、と言うのもすぐに立ち直ってくれた理由の一つだろうと推測する。
「いえ。バルトフェルドさんにもそれについては言われていますから」
苦笑とともにそう言い返す。
「偶然にも名前も一緒らしいので」
言葉とともに小さく肩をすくめてみせる。
「そうなの」
「気にしたこともなかったので。ただ、そのせいであの人にいじめられているかと思うと複雑な気持ちですが」
言葉とともにため息をつけば、彼女は「それは困ったものね」とうなずいてくれた。
「ともかく、今、マルキオ師のところに案内するわ。誰か、先に行って『お客様だ』と伝えてくれない?」
彼女の言葉に子供が一人かけだしていく。
「こちらですよ」
それを見送ってからラウの方へと視線を戻す。そして、こう言ってきた。
「ありがとうございます」
そう言ってラウは微笑んでみせる。その瞬間、集まってきた女の子達が目を丸くしていたことから、負わない子供達にも自分の顔は有効なのかと納得した。
そんなことを考えていれば、何かが服の裾を引っ張る。視線を向ければ小さな子供が彼の服の裾を握りしめていた。
「どうかしたのかな?」
「おうちまでいっしょにいっていいですか?」
そうすれば、子供はこう問いかけてくる。
「かまわないよ」
そういえば、初めて会ったときのキラもこのくらいの年齢だっただろうか。
自然と口元に刻まれた笑みとともにうなずき返す。
それが契機になったのだろうか。周囲から自分もと言う声が次々と上がる。
「あらあら。みんな、ラウ……君の邪魔をしてはだめよ?」
一瞬とは言え、カリダが言葉に詰まったのはあのときのことを思い出したからだろうか。
「いえ。このくらいであればかまいません」
小さく首を横に振るとラウはそう告げる。
「邪魔をするようならしかってね?」
「もちろんです」
ラウの言葉を聞いてからカリダは歩き出す。
周囲にいる子供達にほほえみかけるとラウもその後を追いかけるように歩き出した。